自動車保険の心強い参入
大幅な金融緩和の効果は大きかった。
国債発行残高4兆7000億ドル(93年末)。
うち民間保有分は3兆5000億ドル。
地方債が1兆3000億ドル、合計では6兆ドルとはほぼ、発行される債券その他の利子も下がる。
ということは、金融緩和以前に保有していた債券の価値がその分上昇することでもある。
その上昇分は、保有していた銀行等の金融機関に大きな利益をもたらし、あるいは投資信託を通じて個人を潤した。
当時、米銀はなお、貯蓄信用組合問題が代表するような不動産貸付などの不良債権に悩まされていたが、こうした債券のキャピタル・ゲインはこれらを償却し「体質改善」を進めるための原資ともなった。
また低金利は株式高騰をもたらして同じく保有者を潤したが、とくに企業は時価発行を拡大させた。
資金を直接、間接に株式にふり向けてきたのは、低金利下で生計維持に腐心していた定年退職者などが中心になったものと見られ、株価は、ダウ工業株平均で88年末の2000ドルから93年末には3500ドルへと上昇したのである。
こうして低金利によって「点火」され、いわば助走態勢に入ったアメリカ経済を、本格的に持ち上げることになったのがドル安である。
ドルは80年代後半、プラザ合意を受けて大幅に下落したが、90年代に入っても低落は継続した。
先に見たように対円の下落がもっとも際立っていたが、アメリカの主要貿易相手国の通貨に対する変動を加重平均した実効為替レートで見ると、ドルは90年以降の変動だけを見ても、93年には約3%、95年秋には約5%下落している(OWOQ算出)。
この実効為替レートの変動は、一国のモノ部門の生産活動に直接影響を及ぼす要因となる。
まず、先にあげた製造業関連のさまざまな指標の好転については、次のようなプロセスを通じてであったと考えられる。
ドル安は、輸出価格の上昇をもたらし、あるいは輸出そのものを促進する。
逆に貿易相手国は手取りを確保するために価格を引き上げるので、輸入に対しては防過的効果を及ぼし、まず、これがアメリカの鉱工業生産の上昇を促す。
実際、生産指数の上昇がとくに目立ったのは、産業用機械・設備、電気機械、輸送用機器・部品の三部門で、このメカニズムをよく示している。
鉱工業生産の上昇は、労働生産性の上昇にとって好ましい条件をつくりだす。
生産怪の算出に際して分子となっている付加価値生産額は、基本的に鉱工業生産と相伴って増大するからである。
なおその際、分母となるのは総労働時間であるが、この減少にはリストラがおそらく影響していたであろう。
名目賃金を労働生産性で割ったものが単位労働コストだから、労働生産性が上昇すれば単位労働コストの安定につながる。
そして単位労働コストの安定は、リストラに対する米国民の恐怖と引き替えに、コスト・インフレの芽を摘むこととなり、ドル安による輸入価格の上昇傾向を相殺、抑制することにもなるだろう。
このように、アメリカ企業の努力の成果と見られがちな、90年代に入っての製造業部門の復権の背後では、ドル安が実際には大きな役割を演じている。
国内外の経済活動をすべてドル・ベースで考えればよいアメリカに、ドル下落は「見えない補助金」をもたらし、これが経済をすみずみまで潤すのである。
また、アメリカは85年以降の経常赤字の累計からすると、対外純債務が95年末には実質1兆ドルを超えていると見られるわけだが、経常赤字は不安を伴いつつも、結局はファイナンスされる。
こうして対外債務が増加してもそれがドル建てであるかぎり、アメリカはドル安により、結果としてその対外価値を減じてゆく。巨額にのぼる為替による「補助金」を手にした製造業モノづくり部門の好調は、マネー部門へと波及し、両者の好循環が生まれた。
証券市場の上昇は94年以降ピッチを増し、ダウ平均は97年に入ると8200ドルにも到達した。
こうした株価の高騰は、資産効果による消費の底上げ、企業の低コスト資金調達による設備投資の刺激などでモノづくり部門を支援した。ESこうした株価の上昇に対して、いかにドル安の効果が大きかったか。
それは、どのような企業グループの株価の上昇がとくに大きかったか、を見れば端的に理解されよう。
SP500と称する指数採用銘柄を対象とするインデックス型投資信託があって、これはいわゆる中・小型株を中心に運用する7般的な投信に対して、当時へ運用成績がよかった。
ウォール街はその理由をドル安の影響と見ている。
「一つの理由は、ドル安だ。」
ドルは最近やや強くなったとはいえ、この3、4年間ずっと安かった。
SP500を構成する大企業はそれ以下の企業より為替変動の影響を受ける面が大きい。
そこで、弱いドルは収益を引き上げるバネになった」
93年以降、それ以前の金融緩和策は修正されていたが、FRBは日銀と違って、株価に衝撃を与える急激な引き締めは行わなかった。
政府による赤字削減措置の効果もあったが、好況で税収が増加したことが寄与して、アメリカの財政赤字は92年度の2900億ドルから95年度には1640億ドルへと減少した。
さらに98年度には黒字転換も見込まれ、その黒字幅も年々拡大するものと予測されている。
財政の相対的健全化は、「レーガノミックスの大幅減税が十年の歳月を経て奏功した」のではなく、ドル安による「補助金」をアメリカが活用した結果である。
少なくとも「日本版レーガノミックス」の主張の根拠となるようなものではないだろう。
加えて、ドル安が株高を誘うもう一つのメカニズムがあった。
ドル安に対抗して、各国の中央銀行は市場介入を強めざるをえないがへその主役はなんといっても日銀である。
ところが介人により円を売ってドルを買うと、結局、手持ちしたドルは米国国債の購入に向かってしまう。
94年末から96年8月までの1年8カ月の間に、米国民は、国債保有を108億ドル以上も純減させ、一方、株式投信向けに純増させているが、これは外国の中央銀行などがアメリカ人の国債売却を肩代わりし、保有比率を上昇させてきた結果である。
85、86年以降、ドル安に対抗するためのドル買い介入を原因とする外国人の米国国債保有比率は、上昇の一途をたどってきた。
96年8月末には発行残高の三割、一兆ドルにも達している。
このように、外国人による、アメリカの対外債務にも匹敵するほどの米国債保有が、結局はアメリカ全体としての株式シフトをもたらし、株価の上昇を継続させる構造的要因となったのである。
日本は高コストかこのように、ドルの下落を媒介として、債務国・アメリカでは経済の好循環が続いた。
一方、債権国・日本が90年代に入って経験した不況は、戦後未曾有のものであった。
この不況の原因は、じつは複雑である。
金融機関の不良債権問題のみが声高に叫ばれたのは、その解決が急がれたという意味では正論であろうが、そればかりが強調されては不況の全体像を捉え損ねることにもなりかねない。
不良債権問題それ自体が、プラザ合意後の対米協調金利政策の結果であることはこれまでに見てきたとおりだが、ここで強調しなければならないのは、アメリカの円高誘導策が平成不況に及ぼした直接的な影響についてである。
まず、これをモノ作り部門について見てみよう。
バブル崩壊のもとでの円高の進行は、アメリカの好況のちょうど裏返しの影響を日本経済に与えたといえる。
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